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森丸彼方のなんちゃって創作ブログ。 お蔵入りネタや、サイトで公開しているネタのメモ代わり等。 ネタバレが出るかもしれません。閲覧注意。
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気分がもやもやしたら、文を書きたくなります。
何となくNLが書きたかったので、日頃お世話になっている人にNLの希望はないかと聞いたら、叶ケイがあがりました。

本編を放り投げている段階であれこれ言うのは少し問題あるかなと思いながら話をすると、私も叶ケイは好きです。
叶くんは中途半端に霊感を得たため、中途半端にしかケイが見えません。
人物として認知していても、幽霊としか認識できない。その歯がゆさを描きたくなります。
ケイも、ソウジとゴウの接し方が微妙に違ったりします。もっともなのは人称。前者はくん付け、後者は呼び捨て。
ソウジくんは弟的な存在として見ているのに対し、ゴウは友人や同級生に近いのかもしれません。

ところでCPの略称なんですが、ゴウケイの方が言いやすくないですか。合計でもいいよ私は。






「新発売。俺のお気に入り」
 靴ひもを結んでいたらそんな言葉が聞こえて、反射的に振り返ったら、顔に何かが飛んできた。一瞬だけ目の前が暗くなったけど、特に痛みはない。視界が明るくなった直後に軽い音が聞こえて、ふむと目線を落とせばスナック菓子の袋が見えた。原料はじゃがいものはずなのに、表面に書いてあるのはさつまいも味。
「奢ってやるから、食ってみろよ」
 兄貴はご機嫌だった。表情に目立った変化はないけれど、声色でわかる。
 あと、これから登校しようと靴まで履いた中学生にスナック菓子を投げつけるなんて真似も、きっと愉快な気分じゃなきゃできないだろう。
 ぱんぱんに膨れたスナックの袋は随分とかさばるものだが、教科書の大半を学校に置いてあるからかばんの中身は空っぽも同然で、これを入れてもあと一袋ぐらいは余裕で入ってしまいそう。
 断る理由はないし、スナック菓子は好きじゃないけど嫌いでもない、何より兄貴の口元が緩んだままだったから、俺は黙ってさつまいも味をかばんの中に押し込んだ。



 昼休みになったら、空が突き抜けるように青かった。こんな時は青空の近くに限る。だから屋上へ行った。
 滅多に教室に現れないソウジは、大体ここか二階の空き教室にいるけれど、今日は後者らしい。でも今回はあいつじゃなくて青空に会いに来たから、探しに行くことはしない。
 溜まったほこりを払って、冷たいコンクリートに腰を下ろす。一緒に持ってきたかばんを脇に置いてからチャックを滑らせて、さつまいも味のじゃがいも菓子を出した。
 とりあえず毒見しよう。おいしかったら他の奴らにも食べさせるか。
 両手で袋の前後をつまんで引っ張り、開こうとしたけど、力加減を間違えたのか大きな破裂音をかまして袋が破け散る。
「あ」
 これは俺の声。だけど聞こえたのはもうひとつ。
「うわ!?」
 最初は空が喋ったのかと思ったけど、加工されたようにくぐもった声には聞き覚えがあった。
 声がした方へ目を向けると、屋上の入り口より上にぼんやり歪んだ影ひとつ。輪郭だけが浮き彫りになっている霊体。
 彼女を通して空が見える。
「ケイ」
 名前を呼ぶと、輪郭が動いた。
「やっほー、ゴウ。あんまり驚かせないでよね。ところで、学校にお菓子持ってきてよかったっけ?」
「見つかったら怒られると思う」
「この不良めが!」
「食べる?」
「お言葉に甘えたいのは山々だけど、ウチはそういうの食べれないんだ」
 肉体がないからね。そう付け加えたケイの顔は俺の目に映らない。声色にしても、よくはわからない。兄貴は付き合いが長いから何となくわかるけど、ケイはそうじゃない。声だってきれいに聞こえないし。
 その言葉を口にしたケイの気持ちなんて知りようがないけど、とりあえず思ったまま「残念だな」と伝えておいた。ケイは大げさに声を荒げた。「本当にね!」
 それからは話題の広げようもない。正直、ケイがそこに残っているかどうかも曖昧だ。俺は何となくでしかケイを認識できないから、こういう時に不便だ。
 まあ、いることがそもそも予想外だったし、いてもいなくても特に変わらない。ずっと放っておいたコンクリートの上の菓子を一箇所に集めて、豪快に破れた袋に戻す。
 ついでに一枚かじってみる。ぱりっと軽快な音がして、塩味と甘味が口内に広がる。まあ、悪くないけど良くもない。
 他の奴らに食べさせるべきか。その判別がつかなくて、一枚、もう一枚と口に運んでいく。早くも味に飽きてきた。これをひとりで食べきるのは辛い。
 兄貴はこれのどこが気に入ったんだろう。俺をからかっただけか?
「ちょっと、ゴウ」
 さっきとは違う場所から、俺の真正面から聞こえた声は心なしかとげとげしている。
 どうしてとげが生えているかも気になるけど、それよりもまだここに残っていたことに驚いた。
「いたのか」
「いたよ! てゆーか!」
「ていうか?」
「食べるなら、もっとおいしそうに食べてよ!」
「おいしそうに」
 復唱はしてみたが、意味不明だ。とりあえず要望どおりにもう一枚かじって、できるだけうまそうな顔を作ってみる。
 返ってきたのは「ぶー」という不満げなもの。
「全然違う。おいしそうじゃない」
「と言われても。これ、もう飽きた」
「飽きたぁ? じゃあ飽きないものをおいしそうに食べてよ」
「どうして?」
「目の前で物を食べているのに、いまいちな顔をしていたらこっちが盛り上がらないの」
「人が食べるのを見て盛り上がりたいのか」
「自分じゃ何も食べれないんだから、仕方ないでしょ!」
 語句の強い、はっきりとした主張。見えなくても、苛立っていることが伝わった。
 なるほど。物を食べれないということは、ケイにとって本当に残念だったのか。だったら、つまらなさそうに食べている顔なんて見たくないだろうな。俺だってそうだ。
 昔から表情が変わらないとかクールとかよく言われていた俺に、ケイが望むとおりおいしそうに食べることができるかはわからない。
 だけど、できるだけ希望には応えてやりたい。それが俺にできることなら。それでケイが満足してくれるなら。
「じゃあ、一緒にどこか食べに行こう」
「……デートのお誘い?」
「そういうのがいいなら、構わないけど」
 特に深い意味もない、本当に何気ない言葉だった。返事はちょっと時間を置いてから、勢いよく飛んできた。
「バーカ!」
 その暴言に秘められた気持ちは、どうにもわからなかった。


【言の葉の味】

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