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森丸彼方のなんちゃって創作ブログ。 お蔵入りネタや、サイトで公開しているネタのメモ代わり等。 ネタバレが出るかもしれません。閲覧注意。
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NLってなんだっけと思いながら書いた文その1

Tre Saysの本編が進んでいたらいつか書いていたかもしれない展開を使っています。
本編放り投げておきながら途中の展開を抜粋するなんて。
私はどこに顔を向けて首を吊ればいいのでしょうか。
そろそろTre Saysの設定をこのブログに載せるべきかもしれない。

文章を書くこと自体がそこそこ久々で、勝手に迷いながら気楽に書きました。
そしたらこんなになりました。自分の中では立派にNLですが、そう呼んでよいものか。



 朝日が眩しくて目が覚める。
 まどろむ顔を叩きながら居間へ行けば、兄も両親も既に朝食を終えていた。
 自分も食パンをくわえて家を出る。
 すっかり着なれた制服はそろそろ裾が短くて、また作り直す手間にため息を漏らす。
 学校に着いた。
 玄関前でソウジに会って、昨夜食べたうどんにとんかつが乗っていた話をした。
 教室に行ったら高嶋が騒いでいて、それにソウジが皮肉を交えて笑う。
 席に座ったらちょうど担任がやってくる。
 ホームルームが始まる。
 何気なくソウジの背中に注目する。未だに発達しきれてない小さな体に取り巻く影はひとつもない。
 視線を窓に移す。空は青くて、飛んでいるのは小鳥だけ。
 今日は平和で、いつも通りで、だけど何かが物足りない。
 不意に窓から光が溢れ出た。白が視界を埋め尽くしていく。

 朝日が眩しくて目が覚めた。
 重い体を無理やり起こして、窓の外を眺める。間もなくゆったりと雲の間を泳ぐ影を見つけて、ようやく夢と現実の区別がついた。
 枕の下に入れていたサイコロを回収してから視線を戻す。影はくじらになっていた。この町はくじらが空を飛んでいる、それを視認したのはつい先日のことだ。
 急いで出かける支度をする。不思議がる父親の声は聞こえたが、言葉として認識できなかった。熱も通さないまま頬張った食パンの味すら堪能する暇はない。
 サイコロをポケットに入れて家を出た。夏の日差しが目に刺さったが怯むのは一瞬だけ、すぐに自転車を引っ張り出してペダルを漕ぐ。

 サイコロを完成させてもろくな結果になるはずがないと思っていた。覚悟していた。だが、いざ現実と直面したら器用に立ち回れはしない。完成させた当事者はもちろん、脇役でしかなかった自分自身も振り回されている真っ最中だ。正確には、振り回されて変化した彼女を追いかけるため、自ら望んでその位置にいるのだが。
 止め処なく流れる汗を拭いながら、心当たりをひとつずつ当たる。学校、喫茶店、病院、神内家。市内を駆けずり回り、望みの姿を見つけた時には昼前になっていた。
 堤防で膝を折ってぼんやりと川を見つめている彼女。高校生に近い風貌、ひとつにくくった茶髪、今まで左目を隠していた眼帯は先日捨てたと聞いている。
 今までぼんやりとしか見えなかった容貌は、いざはっきり確認できると、想像と随分食い違っている。想像していた彼女は、もっと幼くて騒がしくていつも笑っていたのに。

「ケイ」

 名前がこれで合っているのか不安を覚えて、何となく力ない呼び声になった。それでも彼女は振り向いた。暗闇を宿した瞳で薄く笑う。
「やあ、ゴウ。夏だね」
「そうだな」
「暑いの?」
「まあ」
 自転車を停めて歩み寄る。隣に移って腰を下ろすまで、彼女の口は止まらない。
「いーなー。夏は暑いって、また感じてみたいよ。きりとについて行けば、いつか叶うと思ってたのになー」
「……なんで離れたんだ?」
「いろいろあるけど、とりあえず、嘘つきだから」
「嘘つきだから?」
「だってそうでしょ。ソウジくんの願いは叶ったのにさ、今日は平和な夏休みじゃん。この世界はちゃんと腐ってるのに、消されたの、ソウジくんだけじゃん」
「腐った世界をきれいにする、だっけ」
「そうだよ。どの辺が叶ったの? ソウジくんが世界を見なければ万事解決、なんてさ、ただのへりくつだよ」
 夏の昼の下で暗い双眸をそっと伏せた。草を撫でようとする手は、しかし草をすり抜ける。大地に叩きつけた拳も、やはり。
「嫌だなあ、むかつくなあ。ソウジくんの願いで世界がきれいになるの、楽しみにしてたのにさ。こりゃあもう、ウチ自身が頑張るしかないよねって、張り切っちゃうわけだよ」
「張り切って、何をするんだ?」
「そりゃあもちろん、腐った世界をきれいにするんだよ、本当の意味でね」
 質量のない手で土を撫でる様は、砂か、或いは水で遊んでいるよう。口にした台詞とちぐはぐな姿。
「ウチがこんな世界を終わらせるんだ。ソウジくんもそうしてほしいはずだよ」
「……できるのか?」
「楽勝だよ。ま、準備は要るけどね。そうだなー、完成したサイコロが三つ全部揃ってたら、それを使って大地震を起こして町を……ううん、星を真っ二つぐらいできるもん」
「信じられないけど、お前が言うのなら、そうなんだろうな」
「そうだよー、凄いでしょー」
「うん、凄い」
「だからさ、ゴウも来てよ。ゴウが協力してくれると、ウチ、とても助かるんだ」
 手を止めて、顔を向けた。晒された両の目は暗い土色を宿していて、そこに自分は映っていない。映っているとすれば、もっと別の人間だ。
 南風が通りすぎる。草々が揺れて川が波立ち、視界の隅にある黒髪もさらわれる。なびかないのは彼女だけ。
 色がわかっても、表情を窺えても、彼女との距離は遠いまま。
「……俺は好きだよ」
「なにが?」
「世界、っていうのか? そんなに広いものじゃないかもだけど。ケイやソウジは腐ってるって言ってるし、そこを否定するつもりはない。でも、結構好きなんだ」
 夢で描いた平和な日常、あれを世界というのなら、それを破壊することに喜べない。
 しかし夢は物足りない。隣の彼女がいなかった。
 彼女だって、自分が望む世界に必要なのに、その気も知らずに破壊を望む。理想は果てしなく、目の前にあるのに届かない。
「……一緒に行くけど、それはケイを止めるためだ。協力するつもりはない」
「つれないなあ。ウチら友達でしょ? 一緒にやろうよ」
「友達だから、止めるんだ」
「ソウジくんが望んでいるのに?」
「じゃあソウジごと止める」
「ふーん。ゴウはよくわかんないなー。まあいいや、やれるもんならやってみなよ。ウチは突っ走るからね?」
「ああ」
 世界は今日も平和なのだ。隣の彼女と噛み合わなくても、友人が意識を失っていても、何事もないように回り続ける。
 胸を空く喪失感は、友人の不在によるものか。それとも。


(こいつって、こんなに冷たく笑うんだ)

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